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彼氏伊野尾くんと後輩中島くん


一つ上の先輩である伊野尾さんとお付き合いしてるんですけど、結構大きな喧嘩をします。仕事上は話すけどそれ以外皆無。お互い意地になって謝るタイミング逃してズルズル。



周りも何となく察してるけど聞けない状態で、でもそこでいい意味で空気の読めない同期岡くんが話しかけてきます。




「ねぇ、もしかしなくても、いのちゃんと喧嘩してる?」
『うん』
「いのちゃん生きる屍じゃん」
『あっちが謝るまで無視する』
「あーなに?今回は向こうが悪いんだ?」




すると、同じ部署の二つ下の後輩、中島くんがデスクの向こうからひょっこり顔を出します。




「どうしたんですか?」
『んー?あ、ゆーと君か。何にもないよ』
「え~?俺には教えてくれないやつですかぁ?」
『あんな変人先輩にもって大変だねゆーと君も。ご苦労さまです』
「変人?」
「いのちゃんだよいのちゃん」
「伊野尾さん・・・?」




実は最近異動でこの部署にやってきた中島くん。社内恋愛事情にはまだ少し疎い部分がありまして。
聞こえてきていた会話と今のやりとりで伊野尾さんに彼女がいるのと、喧嘩中なのを察する中島くん。




なんやかんやで定時。



みんなが帰り支度をする中、またデスクの向かいからひょっこりと頭が。




「お疲れ様でーす」
『お疲れさまー』
「あの、今日って夜空いてたりしますか?」
『今日?んー、あ、うん何もないね』
「じゃあ!ごはん行きませんか?」
『あたしと?いーけど・・・あ、これ終わらすからちょっとだけ待てる?』
「はい!じゃあ下で待ってますね!」
『はいはーい』




ぱたぱた駆け出す中島くん(かわいい)。



キリのいいとこで終わらせて退勤していった彼女を見届けて姿が見えなくなった瞬間、伊野尾さんがおかしくなります。




「あああああああああああああああ」
「いのちゃんそれほんとやめて」
「だいちゃああああああああん」 
「うるせぇ!」
「どうしようどうしよう八頭身イケメンに誘われてごはん行っちゃった」
「・・・ゆーとね。いいんじゃないの?ごはんだけでしょ?」
「あああああああああ」
「てかいのちゃんその前に謝らないとダメじゃん」
「だってめっちゃ怒ってたもん」
「もうマジしっかりしてくれよいのちゃん・・・ゆーとに取られても知らないからね」
「それはもっといやだあああああああああ」




人も疎らなオフィスに響き渡る総務伊野尾さんの断末魔。同期岡くんも溜め息しか出ません。







一方その頃彼女さんはというと。


中島くんオススメの焼き鳥屋さんで乾杯。レモンサワーと生中でおいしい焼き鳥に舌鼓。


歓迎会の時に隣になってから何故かよく懐いてくれている中島くんは、絵に描いたようなイケメンで社内でもモテている(らしい)。


楽しそうに喋っている横顔はモデルなんじゃないかと疑うほどの造りをしていて、そりゃモテるわなと内心思っていると。




「あの、」
『んー?』
「付き合ってるんですか、伊野尾さんと」
『んー、まぁ、うん』
「でも今は喧嘩してると」
『そんな感じかな』
「だとしたら分かりやす過ぎますね」
『だよね~あんな抜け殻みたいな顔してたらダメだよね』
「抜け殻って( 笑 )」
『でも今回はあっちが悪いから謝らないって決めてんの』




彼女、レモンサワーぐいーっと煽る。
中島くん、せせりを食べる。




「へー・・・てか残念です、付き合ってたんですね伊野尾さんと」
『うん・・・え、なに、いのちゃん狙ってたの?』
「なんでそうなるんすか(笑)」
『あたし?はー・・・物好きだねゆーとくんも』
「まぁ彼氏がいる人にはなにもしないんで」
『あらお利口さん。今ならぐらっといっちゃうかもよ〜?』
「あっは!だめでしょそれは〜!」
『んはは・・・さて、そろそろ帰りますか、明日も仕事じゃ〜』
「あ、ぼく送りますよ」
『いいよいいよ、こっから近いし』
「だめです!夜道は危ないですから」
『そう?じゃあお願いいたします』




(すごいどうでもいいけどここでお会計でひと悶着したい。「僕が誘ったんで僕が出します!」って聞かない中島くんね。後輩なんだからいいよ、って言ったら見えない犬耳がしゅん⤵︎って下がってるのが可哀想で、じゃあ、今度は中島くんの奢りね?って言ったら尻尾ぶんぶん振ってはい!って返事すればいい)




お言葉に甘えてアパートの近くまで送ってもらうことに。




『とーちゃくです』
「じゃ、お疲れ様です」
『ありがとうなぁ風邪引かんようにあったかくしてねるんやでぇ』
「お母さん!(笑)」
『にへへ、おつかれ〜』




軽い足取りで階段を上がっていると、




「・・・あの」
『なに?』
「伊野尾さんに飽きたら、僕立候補しますから」
『・・・ふふ、ばーか』




真面目な顔から一転、いたずらっ子みたいに笑って頭を下げる中島くん。


年下もいいかも、と一瞬思う。




「へへっ、おやすみなさい」




廊下を歩いていると、自分の部屋の前にしゃがみこむ人影。顔こそ見えないけど、見覚えのある黒髪、体格、革靴。




『え、いのちゃん?』
「おかえり」
『ただいま、って鍵は?持ってるよね?ずっと外で待ってたの?…っうお』




突然立ち上がって抱き締める伊野尾さん。苦しい程抱きしめてくるのなんか初めてで困惑。

首元に顔を埋めて、隙間なんか無いくらいに抱き締められる。




「おかえり」
『ちょ、いのちゃん、くるしいって』
「おかえり、ごめんね、ごめんなさい」




もごもごと泣きそうな声で謝ってるのを聞くと、なんだか今まで怒ってたのが馬鹿らしくなってきて。パンパンに空気が詰まった風船が、しゅるしゅると萎んでいく感覚。




『…もーわかったから、あたしも意地はりすぎた、ごめんね』




背中をとんとんして、顔の横にある頭を撫でてあげると、少しだけ伊野尾さんの身体の力が抜けた。


結局のところ、意地っ張りで、少しヘタレだけど、伊野尾さんのことが大好きなのです。




「ゆーとのとこ行っちゃやだ」
『行かないよ、ばーか』







ゆーとくん当て馬にしてごめんなさい!!!!!!


まだ好きになる前だから良かったよねゆーとくん!ちゃんとこのあとゆーとくんにも彼女ができるといいね!